森岡孝二著『就職とは何か』を読んで ―まともな働き方とは?

森岡孝二著『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』(岩波書店)を読み、自分の中でまとめる機会がありました。ファイルの内容を確認してみると、自分の手元だけにファイルがあるのがもったいないので公開します。

「就職とは何か」

就職とは、人生の方向性を決める上でとても重要なプロセスと言えるが、現代の日本社会では、非常に深刻な問題だと思う。『就職とは何か』の著者である森岡孝二はさまざま面から「就職」という点で、企業の問題点や就職活動の問題点を指摘しているが、それ以上にも日本人が「働く」というイメージを改善すべきであると考える。

日本の就職の流れ

一般的に、日本の企業は定期採用という制度を取り、大学生は遅くとも4年生になると就職活動を開始する。就職活動では、自分自身の長所や弱点を分析し、それを踏まえて、エントリーシートに記入し、採用面接を受けるというプロセスがある。ただ単に、学生は1社の採用面接を受けるだけでも精神的にきついはずなのに、企業側は優秀な人材を確保したいがために、学生を何度も面接することで、企業にとって適切な人材を確保しようとする。

また、定期採用という制度で、学生が一斉に就職活動を開始するために、そこに漬け込んだビジネスもある。例えば、学生が「リクルートスーツ」を着るのが一般的とし、販売する業者、面接やエントリーシートの記入の方法を教える “就職予備校” なるものやリクルート社が運営する求人検索サイト「リクナビ」などが存在する。学生が就職するにあたって、文部科学省や厚生労働省の存在があってもいいものの、民間企業や日本経団連の存在で、文科省や厚生労働省の存在感は薄い。

定期採用の制度では学生が自分に適した職種を探すことも非常に困難。日本にも「インターンシップ」という制度もあるが、5年間をかけてインターンシップで卒業に必要な単位を取得する制度のある欧米と比較すると、数日程度の期間や学生が既に行なっているアルバイトの経験をほとんど無視している点を踏まえると、「ほとんど参考にならない」と森岡は指摘している。

ブラック企業

仮に、激しい就職競争を勝ち抜いて内定を得て、企業に就職しても自分自身が望んでいることと実際に待ち受けていることがほとんど異なる場合が多い。就職情報サイトに書かれている「給与」は、さまざまなからくりがあり非常に曖昧である。残業手当をもらうためには、1ヶ月80時間もの時間外活動を要することを企業に就職してから知った「日本海庄や」の例もある。内定を得て企業の正社員となっても、長時間に渡る労働を強いられ、本来、労働者の権利である年次有給休暇を取れない点などから、ネットスラングである「ブラック企業」が日本語として定着したのもこのような背景がある。

非正規雇用

統計的には、1950年後半から近年の労働時間の変化を見ると、男女計で2700時間から2100時間に減少しているものの、これはパートタイム労働者も含めた労働時間であって、今現在、パートタイム労働者も増え続けているので、実質的には減っていない。

非正規社員のパートやアルバイトは、正規雇用と比較すると賃金の格差も大きく、男女においての賃金の格差も大きい。また、職場での待遇も正社員と大きく異なり、福利厚生がなかったり、育児休暇なども取ることができず、非常に弱い立場にある。

そのような現状から、内定を得ることができず、就職ができなかった学生は、 “就職浪人” という形で大学を留年し、就職活動を1年続ける場合もある。

「働く」とは

改めて「働く」ということを考える。「働く」という言葉を辞書で引くと「生計を立てるために一定の職につく」(明鏡国語辞典,2006)としている。「働く」という言葉自体には、正規で雇用されようが、派遣社員・アルバイトで働こうが、全く関係のないことだ。

正社員にも関わらず、まるでアルバイトのようにシフト制で勤務をしている企業の例をあげる。通信業界のベンチャー企業である日本通信では、独特の業務形態「Crew System」を導入している。「Crew System」とは、スペースシャトルでの業務形態を真似て、すべての「Crew」(社員)を統括する「Crew Chief」(部長)を置く。2時間おきに業務時間を「スロット」として区切り、毎日夕方にはCrew Chiefが各Crewに翌日に必要な仕事をスロットごとに割り振って、翌日に、業務を行うのに最適な人数のCrewが業務をこなす形をとっている。一見すると、まるで飲食店でのアルバイトで採用されているシフト制だが、正社員がシフト制で効率よく働くことができるシステムである。Crew Systemでは、基本的に業務をスロットごとにこなすため残業が存在しない。また、一般的な日本の企業で見られる年功序列制度はなく、各社員(Crew)が同等の立場で仕事をしている。正社員であるため、福利厚生も存在し、育児休暇なども取ることを可能である。

例に上げた日本通信は、一般的に呼ばれているワークシェアリングとは違う印象を持つと思うが、立派なワークシェアリングだ。これを可能にしているのは、日本社会に一般的な年功序列制度を廃止して、正社員をシフト制でうまく調整しているからだ。

「働き過ぎ」を異常と思わない日本人

森岡は、著書の中で「日本人はまともな働き方を知らない」として、時間外のサービス残業がある現実を “異常” としないことを異常としている。実際に、森岡の著書では、政府や労働組合が有効な対策をとれておらず、その原因は自分たちの置かれている環境を “異常” と思わないからだ、と指摘している。

一般的に日本人は勤勉的で「働くことは美徳」という共通認識を持っている。しかし、労働基準法で認められている1週間計40時間・1日8時間の基準や三六協定で設定されている月80時間の過労死ラインは、あまりにも肉体的にも精神的にも労働者にとって厳しいものである。実際に、土日などを含めて長時間労働をしている若者の中では、勤めている会社に飼い慣らされてしまった状態という意味の「社畜」というネットスラングをインターネットで発信し、最近では社会一般に広まっている。

確かに、森岡は「自分たちの置かれている環境を『異常』と思わないからだ。」と指摘しているが、著書が書かれてから状況が変わり、労働者が自分たちの労働条件があまりにも劣悪であるという点に気づいているということを指摘したい。

「サービス残業解消型ワークシェアリング」を

森岡は著書の中で「サービス残業解消型ワークシェアリング」を労働に関して複雑な問題が絡み合った日本の社会で導入することを提案している。もし実現が可能であるならば、男性のサービス残業と働き過ぎは大きく解消し、今まで働く機会が少なかった高齢者や子育て中の女性にも仕事を割り当てられるとし、政府の税収も向上し、経済的にもメリットが大きいとしている。

実際に、現在の就職難や雇用不安、あるいは貧困や働きすぎを同時に解決するのは困難だが、前述の日本通信のように、民間でもワークシェアリング的な業務形態を導入するのが理想的である。

しかし、「社畜」や「ブラック企業」というネットスラングが世の中に定着してしまった以上、日本社会全体が “働きすぎ” ということを問題視しなければならないはずなのに、政府は “働きすぎ” に関して何の問題意識を持っていない。政府が積極的に「ワークシェアリング」を取り入れたり、労働基準法の改正などを実施し、労働者が精神的にも肉体的にも負担のないように働ける環境づくりをようにすべきだ。

(参考文献)

森岡孝二『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』 , 岩波書店, 2011年
日本通信 About Crew System <http://www.j-com.co.jp/corp/recruit/2012/crewsystem.html> 2013年5月19日アクセス

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